桜が散るその日
たまに鼻についてしまう華やかな庭が、今では無表情。全てが白。まるで何も書かれていない便せんのよう。何かを書かなければいけないとわかっているのに言葉は出てこなくて、所々にインクのシミが増えていく。あの、人を不愉快にするもののようだと、奏は音に耳を傾けながら思った。
「お気に召しませんか?」
音が止まり、違う音がした。夏になると盛んに花が咲くであろう方を見ていた奏は、音のした方に視線を移す。バイオリンを手にした明が、心配をしてるような顔をしていた。
「そんなことございませんわ」
だから桜の君は安心させるように、穏やかに笑ってみせる。世の人は、これを桜の花が咲くような笑顔と呼ぶ。
場所は、桜の君の自室に接している庭。時は冬の午後。
桜の姫君は縁側に座布団を敷き星座をしていた。ここが、桜の君のいつもの場所。ここで明の話を聞いたり、バイオリンの音を聞いたりしている。
安心させようたしたというのに、明の顔は晴れてはいなかった。
それにしてもと、明に微笑みながら奏は思った。彼にバイオリンはとても似合っている。それこそ、どこぞの舞台で堂々と音楽を奏でている一流のバイオリン奏者のよう。容易にその姿を想像できてしまうのは、幼き頃の記憶からだろうか。
確かに、一流のバイオリン奏者というのは朔明からしたら、遠いものではないだろう。明のバイオリンの腕は一流並み。有名なバイオリン奏者とも知り合いが多いと聞く。そして、その腕はこの世界では知り渡っている。この世界。財閥、良家、金持ちの世界。つまり、桜の姫君の世界のこと。
「ぼうっとしていましたよ。お体が、よろしくないのでは?」
今日は肌寒くはあると思う。しかし、具合が悪いというわけはない。
心配顔のままの明は、自分の上着に手をかけていた。
ソンナノ、イラナイ
奏は突き放すように首を振る。そして、桜の君は顔を上げまた微笑んでみせる。
「大丈夫ですわ。ただ、あなた様のバイオリンの音に聞き惚れていまして…」
お恥ずかしいですわ。と、桜の君は別に赤く染まっていない頬を隠すように両手で挟む。
「しかし、今日は寒いですから」
奏の意思表示を無視して、明はそっと上着を掛けてくれた。奏は小さく息を飲み込んだ。
「お気に召しませんか?」
音が止まり、違う音がした。夏になると盛んに花が咲くであろう方を見ていた奏は、音のした方に視線を移す。バイオリンを手にした明が、心配をしてるような顔をしていた。
「そんなことございませんわ」
だから桜の君は安心させるように、穏やかに笑ってみせる。世の人は、これを桜の花が咲くような笑顔と呼ぶ。
場所は、桜の君の自室に接している庭。時は冬の午後。
桜の姫君は縁側に座布団を敷き星座をしていた。ここが、桜の君のいつもの場所。ここで明の話を聞いたり、バイオリンの音を聞いたりしている。
安心させようたしたというのに、明の顔は晴れてはいなかった。
それにしてもと、明に微笑みながら奏は思った。彼にバイオリンはとても似合っている。それこそ、どこぞの舞台で堂々と音楽を奏でている一流のバイオリン奏者のよう。容易にその姿を想像できてしまうのは、幼き頃の記憶からだろうか。
確かに、一流のバイオリン奏者というのは朔明からしたら、遠いものではないだろう。明のバイオリンの腕は一流並み。有名なバイオリン奏者とも知り合いが多いと聞く。そして、その腕はこの世界では知り渡っている。この世界。財閥、良家、金持ちの世界。つまり、桜の姫君の世界のこと。
「ぼうっとしていましたよ。お体が、よろしくないのでは?」
今日は肌寒くはあると思う。しかし、具合が悪いというわけはない。
心配顔のままの明は、自分の上着に手をかけていた。
ソンナノ、イラナイ
奏は突き放すように首を振る。そして、桜の君は顔を上げまた微笑んでみせる。
「大丈夫ですわ。ただ、あなた様のバイオリンの音に聞き惚れていまして…」
お恥ずかしいですわ。と、桜の君は別に赤く染まっていない頬を隠すように両手で挟む。
「しかし、今日は寒いですから」
奏の意思表示を無視して、明はそっと上着を掛けてくれた。奏は小さく息を飲み込んだ。