ただその一言が言えなくて…
学校に着いて


先生がアタシの顔を見るやいなや


「前嶋はどこ受けるか早く決めなさい」


って……。


美城、って言ったら良いだけなのに


それも言えない。


……言いたくない。


でも、いつまでもこのままじゃダメで…。


あと3日で


願書提出締切……。


どうしよう…。



夜、家族会議があった。


「幸の成績じゃ美城だよね。早く願書出さなきゃ受けられなくなるよ」


ママ、……


「……うん」


…嫌だよ。




アタシの様子が違うのに気付いたパパが


「幸、どこか行きたいところあるんじゃない?」


って聞いてきた。


アタシは勇気を振り絞って


…大きく深呼吸した。


「アタシ、楼閣行きたい」




一瞬、時が止まった。





ママが口をひらく。


「幸、…無理よ。あんたの成績で楼閣行けたら他の子皆通っちゃうわ」


「分かってるよ!でも行きたいんだもん!!」


「なんでよ?理由は?」


理由は……


「楼閣は規律を守らせるから」


どこかで聞いた。


「翔君と小海ちゃんに感化されたんでしょ?でも二人は中学1年からずっと学年トップと2位だったのよ。…あんたは何なのよ」


涙が溢れてきた。


分かってるよ。


そんな現実くらい。


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