飛べない黒猫
泣き続ける真央の頭を撫でながら、蓮は、ぼんやりと窓の外を見ていた。

青く芽吹いた深緑の若葉が、風にゆれている。
四方に伸びた細い枝は、強い風に流れるままに身をまかせて柔らかにしなっていた。


蓮は、数奇な運命に翻弄される自分達を思う。

風を恐れ、避けていた。
風に反発するには、頑丈で、身をすっぽりと隠してくれる位の大きな壁が必要だと考えてきた。


風が吹いても、枝はしなるというのに…



「ねぇ…真央?」


蓮は穏やかな声で話し始めた。
力なく、くたりと寄り添っていた真央は、蓮の腕の中でピクリと動いた。


「俺達は、もう、充分に苦しんだよね…」


真央は顔を上げて蓮を見る。
泣き疲れてうつろな目をしていた。


「もう…やめよう。
どうしようもない事なんだ。
自分のチカラで、どうこう出来る次元のモンじゃないんだから…」


蓮は真央に向き直り、お互いの目の高さに顔を合わせてじっと見る。


「俺の目を見て…この色。
どんなに俺が努力しても、早寝早起きして目の疲れに良いって言われるブルーベリー死ぬほど食べても。
残念ながら、真央のような黒い大きな瞳にはならない。」


「う…ん?」


まだ、涙のあとが残る瞳で、戸惑いながらも真央は返事をする。


「火傷の跡も、奇形の指も。
物心ついた時には、すでにこの状態。
自分の努力で以前の状態に戻すことは可能か?
…戻りはしないよ。」


蓮は、右手をチラリと見て、視線を戻す。


「そして…
犯罪者で、殺人を犯した男が自分の父親だったという事実。
俺にはどうする事もできない。
たとえ身体の血を全て、輸血で入れ替えたとしても…子であることに変わりはないんだ。」




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