飛べない黒猫
突然、洋子の慌てる声が、廊下中に響き渡った。


…真央だな。


蓮は立ち上がる。
おおかた鉢合わせした真央が「おはよう」なんて挨拶でもしたのだろう…



慌てたようすの洋子が、寝室のドアの前にいた。


「…大変っ、真央ちゃんが…
おはようって…
あたしに、おはようって言った!」


はは…どんぴしゃり。


「…うん。
で、真央は?」


「…?
あっ!うわぁ…
あたしったら、おはようって言い返すの忘れてた!
今、言ってくるっ。」


…相当、混乱しているようだ。


洋子は、「真央ちゃん…」と口走りながら居間に戻る。

寝室のドアが開いて、寝起きの青田が慌てて蓮を見る。


「あ…、真央?
何かあったのですか?
…洋子は…?」


そう言いかけた時、洋子の叫び声とも泣き声ともつかない悲鳴が聞こえた。

青田は血相を変えて居間に走った。



居間のソファーの前で、洋子は真央に抱きついて泣いている。
真央はされるがまま、戸惑った顔でこっちを振り返った。


青田は何が起きたか分からず、蓮に尋ねる。


「何が…あったのでしょう?」


蓮は青田に微笑んだ。


「真央が母に“おはよう”と言ったそうです。」

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