飛べない黒猫
「えっ…」


青田は意味が理解出来ないようすだった。


「今朝、真央は言葉を話しました。」


蓮は青田をしっかりと見つめて言う。


「父親の事を嘆く僕を、真央は…真央の言葉で救ってくれたんです。」


青田の表情はみるみるうちに歪み、ゆっくりと真央に視線を移す。
真央は父親と目が合うと、ニコリと微笑んだ。


「…真央。」


青田が2人に歩み寄る。


「…お父さん…おはよう。」


真央は少し恥ずかしそうに笑う。


青田は無言で2人を抱きしめ、肩を震わせて泣いた。




洋子と青田に抱きしめられ、窮屈そうな姿勢のまま、真央は蓮を見た。

この状態をどうしたらいいのか戸惑っているようだったが、幸せそうだった。
目に涙をためて嬉しそうに笑っていた。

蓮も真央を見つめて優しく微笑んだ。



ベランダで物音がする。
トイレを済ませたクロオが、家に入れてくれとせがんでいた。

真央に気づいてもらおうと必死にガラス戸を引っ掻いて鳴いているようだった。

“残念ながら、取り込み中の真央は気づかないよ。"

蓮は、クロオの必死の様子を眺めてクスリと笑う。

「わかったって…」小さくつぶやいて、クロオを抱き入れ、足を拭くために洗面所へと連れて行った。


真央は、クロオが蓮に連れられて行くのを見ていた。

無造作に抱きかかえられたクロオは、不満げな顔で真央を見ている。
蓮に、ゴシゴシ手荒に足を拭かれるのが嫌いなのだ。

それでも、大人しく抱かれている。
クロオは蓮が好きなのだ。

真央は連れ去られるクロオを見て笑った。
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