飛べない黒猫
外から戻ったばかりのクロオは、ひんやりとして埃っぽい匂いがする。
蓮は洗面ボールに水を少し張って、クロオの足を洗った。


「こら、足、引っ込めるなって…」


ネコは水が嫌いだとよく聞くが、クロオはまさしくそれだった。

テレビの動物番組で、風呂に浸かるネコだとか、水遊びするネコが紹介されるがとんでもない話だ。

ちょっと、足先に水がついただけで大騒ぎだ。


「おまえ、過保護すぎるんじゃねーの?
このくらいの水にビビるなよ、オトコだろ?
…あ、女の子か。」


前脚を洗い終わり、タオルで拭き取る。

次は後ろ脚をつかみ、水に浸す。
クロオは嫌がり蓮の肩にしがみついてくる。


「あー、爪っ、痛いから…もぅ!」


なんとか洗い終わり、洗面ボールの水を抜く。

クロオは何ごともなかったように、蓮の足元で濡れた前脚を舐めている。


「あっちの3人は…どうなったかな。
見てこいクロオ…」


予想通り、クロオは知らん顔。


「親子水入らずで、真央の回復を喜んでいるんだ。
なんか、俺が居たら場違いだろう…」


しゃがんでクロオの頭を人差し指で撫でる。


「お前も気い使ってんの?
いつも、真っ先に真央のトコへ行くくせに。」


クロオは舐めてた前脚をもどし、今度は蓮の指先をペロペロ舐めだした。


「なんだよ、俺の肩、引っ掻いたくせに。
みみず腫れになって、かゆいんだぜ。
お前に引っ掻かれると…
いまさら媚びても遅いから。」


クロオは蓮を見てニャアと鳴いた。
< 109 / 203 >

この作品をシェア

pagetop