飛べない黒猫
メイド喫茶は盛況で、飲み物以外の軽食(市販のハンバーガーやサッンドイッチ)も順調に売れていた。

直哉と美香は奥の窓際の席で、2人向かい合い早めの昼食を取っていた。


「あ、蓮さんと真央…
おぶさってるな、具合治らなかったんだ。」


蓮が真央をおぶって、グラウンドのフェンス寄りを正門に向かって歩いている。


「あーあ、帰っちゃった…
一緒にここでお昼食べる予定だったのに。
もう!なんで、お兄ちゃんと2人向かい合ってごはん食べなきゃなんないのよぉ。」


「だから、俺は一人で食うからイイって言っただろ?」


「だって!蓮さんとまわるから、友達と約束してなかったンだもん…」


美香は不機嫌にハンバーガーにかじりつく。


「ねぇ、おにいちゃん、帰り真央の家に行ってみない?」


「…なんで?」


「真央の様子も気になるし…」


美香が口ごもる。

直哉は氷で薄まったコーラを一口飲んで美香を見た。


「蓮さんに会いたいの?」


美香は顔を赤らめる。


「蓮さんは…やめとけ。」


深刻な直哉の表情に、美香も真顔で怪訝そうに聞き返した。


「…なんで?」


恋愛の気持ちは、盛り上がってしまうと収まりがつかない。
早いうちの方が、諦めるのも楽なはず…

直哉は父親から聞いた話を、小声で美香に話して聞かせた。
< 174 / 203 >

この作品をシェア

pagetop