飛べない黒猫
ずらりと並んだ夜店をまわる。


「蓮っ!亀だ。
亀が売ってる…買う?」


「亀は要らない。」


「あっ、これ知ってる!
虫を食べる植物なんだよ…買う?」


「…要らない。」


「わぁ、イチゴ飴だ。
リンゴ飴は大きいから…イチゴの方買う?」


「そうだね、いいよ。」


こんな調子で1件1件見て歩いた。

一回りすると真央も満足したらしく、花火の見える川辺までのんびり歩いて移動する事になった。


「毎年お母さんと一緒に、花火を見に来たんだよ。」


「…うん。」


「その時ね、聞いたの。
どうして花火のドーンって音は、体の中で響くんだろう?
そうして花火が広がると胸がドキドキするんだろう?って。」


「お母さん、何て言ってた?」


「あのね、花火は人間だけじゃなくて、死んじゃった人達にも見えるんだって。
生きてる人も、死んじゃった人も、一緒に見るの。
心に直接届くから、心の中まで響くのよって。
目だけじゃなくて、心でも見れるようにねって…そう言ってた。」


「あぁ、そうか…
俺も聞いた事がある。
もともと花火は、とうろう流しと同じように供養の意味があるって。」


真央は暗くなり星が瞬き始めた空を見上げる。


「今日の花火…お母さんも見るよね、きっと。」


「…あぁ、見るよ。」


蓮も夜空を見上げた。
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