飛べない黒猫
「横になった方がいいですよね。」


蓮は、震える真央を抱きかかえて、ソファーに運びそっと寝かせた。



「そうですね、少し静かに休ませてやりましょう。
ありがとう、蓮くん。」



青田は、オロオロしている洋子の肩に優しく手を添え、蓮に礼を言った。

和野が冷やしたタオルを真央の額にのせ、心配そうに見つめている。



「赤ワインのシミが広がっていくのを見て、思い出してしまったのですね…。
しばらく休むと良くなると思いますから…大丈夫です。」



そう…
真央は母親が殺害された時の、傷口から広がる大量の血を思い出したのだ。

ワインがこぼれ、真っ白なテーブルクロスに真っ赤な液体が広がる様子は、幼い頃の恐ろしい記憶を蘇らせるきっかけになってしまったようだった。



「あたしのせい…。
真央ちゃん、せっかく笑ってくれたのに。
怖い思いさせちゃったのね…
本当に、ごめんなさい…」



洋子はシュンと肩を落としている。



「洋子さんが悪いわけでは無いですよ。
気にすることはありません。
…酔いがすっかり醒めてしまいましたね。
こっちで、飲み直しましょうか。」



クロスが交換され新たにセッティングされたテーブルには、白いスパークリングワインがクーラーバケツの中で冷やされていた。

3人が真央のそばを離れると、あとは自分に任せてくれとばかりに、クロオがニャアと鳴いてソファーに飛び乗った。
クロオは真央に寄り添うように、足元でまるくなりじっとしていた。


「仲良しですね。」


蓮がクロオを見てつぶやいた。


「えぇ、いつでも一緒なんですよ。」


つまみを運んできた和野もクロオを見て微笑んだ。
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