飛べない黒猫
真央は、ペンダントの石を左右に少しづつ動かし、青みがかった柔らかい光を放つ石の光沢に見入っていた。


「ムーンストーンはパワーストーンと呼ばれる石の一種で、昔から世界各地で使われていたんだ。
この石には月の光が封印されていると伝えられているらしい。
月みたいな青白い色してるよね。」


石に見入ったままうなずく。


「癒しの効果があって、持っているだけでもいいらしいけど、ペンダントとしてぶら下げた方が直接胸にパワーが来るって。」


真央は眺めていたペンダントを自分の首にさげた。


「つけてくれるの?」


どうやら気に入ってくれたらしい。
やっと石から目を離し、真央はニコッとわらって、うなずく。

無邪気な少女の顔になり、瞳には輝きが増していた。

…かわいいな。
真央の素直な仕草に、蓮は思わず微笑んだ。


ペンダントは、真央の動きに合わせて、左右に揺れる。
ムーンストーンは、黒いワンピースに白く浮きあがって神秘的な美しさを放った。

まるで夜空の月のように。



「喉は乾いてない?
何か冷たい飲み物を、もらって来ようか?」


まだ若干、真央の顔色はすぐれない。

蓮がソファーから立ち上がったと同時に、揺れる小さな月に我慢出来なくなったクロオが、真央の膝の上でぴょん、とペンダントに飛びついた。

無理な体勢からのジャンプは無惨に失敗して、クロオは真央の膝から滑り落ちた。


「あははっ、残念だなクロオ。」


何事も無かったようにすました顔で、また足元に擦り寄るが、揺れる石に興味津々なのが一目瞭然だった。


青田と洋子は、こっちを見て笑っていた。
2人ともホッとした顔してる。

今夜、真央が笑った事で、きっと2人の再婚話しは急速に進むだろう。


新しい家族…悪くはない。

蓮はグラスを取りにキッチンへ向かった。
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