飛べない黒猫
不思議そうに洋子が聞き返した。

金持ちの旦那さんに、面倒見てもらう…という感覚がピンとこないらしい。

そうかもしれない。
彼女は人に頼る事を知らずに、ここまで生きてきたのだ。

きっと、今回の結婚も、自分が彼を支えていかなくちゃ…的な発想なのだろう。




「でもさ、青田さんの事業の手伝いとか、仕事上の付き合いもあるだろうからね。
今までと同じように、仕事するわけにはいかないんじゃない?」


「うーん…。
でも、彼の仕事は彼の仕事。
今までやってきてるんだから、あたしが手伝わなくても別段、問題ないでしょ。
あたしだって、今の仕事ひとりでやってきたし、彼に手伝ってもらわなくても大丈夫だもの…」


…そーゆー問題?


「だいたい、建設の事なんて、あたし全く分からないから。
あれだけ大きい会社だもの。
優秀な人材そろってるわよ。」


「…まぁ、ね。」


「夫婦2足のワラジ。
お互い違う仕事をしていた方がいいんだから。
もしも、あれよ…
彼の会社が駄目になって、彼が路頭に迷っても、あたしが面倒見てあげるわよ。」


「はははっ…
そりゃ、青田さんも心強いわ。」


「当然よ!」




…やっぱり、そうだった。




狭いマンションの2人暮らし。
たいした家具も無い。

少ない荷物を運び込んで、引っ越しは完了した。
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