飛べない黒猫
岡田が家族を連れて屋敷を訪れたのは、予定より早い、まだ陽の明るい時間だった。


「御無沙汰致しておりました。
この度は、おめでとうございます。」


出迎えた青田と洋子に愛想良く挨拶したのは岡田の妻だろう。
落ち着いたよく通る声が、居間まで響く。

玄関先で一通りの挨拶を終え居間に来た岡田達を、蓮が迎えた。


「始めまして、蓮です。」


一瞬静まり、蓮に視線が集まる。



「あ、失礼。
岡田です…。
ハーフだとは聞いていたのですが、全く日本人に見えなかったものですから驚いてしまって。」


冷やかな声だった。
真央が言っていたとおり…


「妻の華江、息子の直哉と娘の美香です。」


父親とそっくりな直哉は、やはり同じように冷静に蓮を一瞥し頭を下げた。

美香は頬を赤らめジロジロと蓮を見つめている。


「さぁ、さぁ、座って下さい、みなさん…」


青田はソファーに腰掛けるよう勧め、隣に岡田、向かいの長椅子に妻と子供達を座らせた。

洋子はキッチンで、お茶の用意をしている。


「真央ちゃんに声かけてきます。」


蓮は青田にささやき、居間を離れた。



真央が彼らに会いたがらない理由に納得する。

階段を上りながら、
「大丈夫だ、君だけじゃない!
彼らは、俺の事も嫌いみたいだ。」
真央には、そう言おうと思った。


ドアをノックし声をかける。


「一緒に下に降りようか?」


ドアが開き真央が部屋から出てきた。
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