飛べない黒猫
夕暮れ時、赤く染まる空を見上げ、蓮と真央は庭で冷たい風にあたっていた。

やがて真央はしゃがんで、クロオの全身をブラッシングし始める。

そのかたわらに蓮はたたずみ、まだ西の空を眺めていた。



その様子を、居間のカーテンの脇から美香が覗いている。

足元に寄ってなつく黒猫に微笑む蓮の横顔は、溜息が出るほど美しい。


その美しさが、美香を嫉妬させた。

美香は蓮に寄り添う真央の姿をジッと睨む。



親戚の集まりにも顔を出さず、周りからは忘れられた存在の子。
精神が不安定なイタイ子。

それなのに、蓮を独り占めするなんて。


たまたま義理の兄妹になって、仕方なく蓮が相手をしているだけなのに。
可哀想に思って情をかけてるだけなのに。

真央は当然って顔して蓮の愛情を欲しいままにしている。




美香は小さい頃から、真央が嫌いだった。

社長の娘というだけで、チヤホヤされて、美香の両親でさえも真央に愛想良くしているように感じられた。


今日だって、そう…。

真央の父親に気に入られようと、点数稼ぎの見え見えお祝い訪問。
なんとか直哉を気に入ってもらって、エリートポストにつけたいと願う父親の必死な態度に、美香はウンザリしていた。



バカね…。
もっといい方法があるのに。


蓮をあたしのモノにする。
そうすれば、すべてがあたしのモノになる。

会社も、この屋敷も。
お父様が欲しくて欲しくてたまらなかったモノを、全て手に入れる事が出来る。

あたしと真央の立場を逆転させればいいのだ。

蓮を独り占めするのは、あたしなんだから…。




美香の口元に笑みが浮かんだ。
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