飛べない黒猫
「気持ち良さそうだね、そこ。
俺も、ひなたぼっこしよっと…」


芝生の上にシートを敷いて座っていた真央の横に、蓮が寝ころんだ。


「おっと、クロオ!
そんな真ん中にいないで、よけてよ。」


クロオは押しのけられてもよけることなく寝そべったままで、ズルズル端に追いやる。

にやーっと鳴いて身体の向きを変え、蓮の脇腹に上半身を乗せてそのまま、また目を閉じた。


「うーん…気持ちいいねぇ。」


蓮も目を閉じ、やかて規則正しい寝息をたてた。



クロオは、真央以外には懐かない猫だった。
青田や和野にも擦り寄る事など無かったのだ。

だが、蓮には早い時期から心を許していたようで、今では身を寄せて寝るようにまでなっていた。


桜の木がザワザワと音をたててそよぐ。
心地よい優しい風が2人の間を吹き抜けた。

蓮の柔らかい髪が陽に透けてそよそよと揺れる。


…きれい。


真央は寝顔をじっと見つめた。

蓮はこの顔を嫌いだと言う。
髪の色も瞳の色も。


とても、きれいなのに…


視線を落とすと、首には火傷の跡。
白く浮かび上がるケロイドは、ひどい火傷だった事を物語っている。

ケロイドは右手の甲まで続いていて、3センチくらいの長さでか細い2本の指の皮膚も爛れた跡がついていた。


初めて会った時には気づかなかった。
指の事を知って蓮の苦しみを知ってから、真央は彼の事が気になりだした。

心に同じ痛みを持つ者同士の親近感からなのか、蓮も真央に対して特別優しくしてくれているように思えた。

一緒に暮らしはじめてからは、特に。

その頃から、真央の日常が輝き出した。
朝起きるのが楽しくなった。
蓮と顔を合わせて、何気なく過ごす時間が楽しかった。

これを、恋っていうのかな…

真央は初めて切ない気持ちを知った。
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