飛べない黒猫
蓮は笑いながら真央の頭をくしゃくしゃと撫でる。
されるがままに撫でられ、下を向いた真央の頬は少し赤く染まった。

真央は、気づかれないように一歩先を歩き、ベランダの戸を開けた。

クロオが鳴きながら寄ってきた。


「ん…お前もメシか?
あれ?クロオのメシって、朝と夜だけだった?」


ブランケットをソファーに置いた時、微かに携帯の着信音が聞こえているのに気づいた。
蓮の部屋から聞こえてくる。


「あらら、仕事の修正入ったかな…」


蓮は頭をかきながら、小走りに居間を出て行った。



真央はクロオの餌入れに、少量のカリカリを入れて床の上に置く。
ゴロゴロ喉を鳴らしながら、クロオは勢いよく食べ始めた。


朝、食べたばかりなのに…


小さな身体でよく食べる。
温かくなってきて、外に出歩くのも頻繁になったし、一度の外出時間が長くなったせいなのだろうか。
お腹がすくようだ。


クロオはたくさん食べても、大きくならない。
子猫のように細っそりしている。

真央と似ていた。


従兄弟の美香を思い出した。
美香は真央と同じ年なのに、長身で大人っぽい体つきをしていた。

体つきだけではない、仕草も表情も、大人だった。


蓮が、さっき言った【イイ女】って、そーゆー感じかな。
真央は無心に餌を食べるクロオを見つめて、あれこれ考えていた。



突然、蓮の部屋から大きな声が聞こえてきた。

何か短く叫んでいる。

勢いよくドアを開け、携帯を耳に当てたまま、蓮は興奮して近づいてきた。


「真央ちゃん!やった…」


何が何だかわからず、驚いて目を大きく見開いている真央の両肩を、蓮はがっしりと掴み、深い緑色の瞳を輝かせて、大声で一気に話し出した。

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