飛べない黒猫
「たこ焼きは、出来たての熱々が旨いんだって言ったら、彼女、店を指差すんだ。
行ってみる?って聞くとうなずくから…。
平日の午後2時だし、きっと空いているだろうと思って。」


むせて咳き込んでいた青田は、やっと呼吸が落ち着く。
もう一度、珈琲をひとくちゴクリと飲み込んだ。


「都合良く、店はガラガラで。
2人で出来たてのたこ焼き食べて、無事に出てきた。」


「真央ちゃん…平気だったの?」


洋子が心配そうに眉をひそめて聞き返した。


「ん…、最初店に入った時は、びくびくして俺の後ろに隠れていたけど。
食べ終わる頃には店内眺めてみたり、興味深げにメニュー見たりしていたかな。
発作は起こさなかったし、気分悪そうにもしていなかった。」


青田が、ふうーっと、深く息をついた。


「そうでしたか。
驚かされる事ばかりで…。
真央がねぇ…
怯えながらも、少しずつ、自分の世界を広げようとしているんですね。」


姿勢を正して、深く頭を下げる。


「蓮くん、君には、感謝しても、し尽くせないですよ。
今回のコンクールの件もそうです。
君が勧めてくれたおかげで、真央の可能性が大きく広がりました。」


蓮は、慌てて首を横に振る。


「そんな、僕は何にもしていませんよ、頭を上げてください…
すべて真央ちゃんが頑張った成果じゃないですか。」


ソファーがきしみ、真央が寝返りをうった。

こちらに顔を向けたが、目は閉じたまま。

まだ、眠っている。


3人は一斉にソファーのあるベランダ側を振り返ったが、真央の寝顔を確認すると、また、向きを戻し話しだした。


「そうそう、真央ちゃんは?
グランプリ取った事、喜んでたでしょう?」


洋子が蓮に尋ねた。
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