飛べない黒猫
「今日、お店に入って食事をしたんだって?」


真央の瞳が輝く。


「たこ焼きとアイスクリームは美味しかったのかい?」


力強くうなずく真央を見て、青田は大きな声で笑った。


「それは良かった。
頑張ったね、真央。
今度、お父さんも連れて行ってくれるかな?
そんなに美味しいたこ焼き、お父さんも食べてみたいよ。」


真央は蓮を見る。
蓮が笑ってうなずいた。

真央は父親の幸せそうな顔を見て、また笑った。


「真央、入賞の事だけど…」


微笑んでいるが、改まった声の青田は、少し言い淀んだ。


「週明け早々、家にコンクールの事務局の人が来る事になってね。
作品の事が聞きたいって、取材で。
真央の事情は話してあるから、説明はお父さんがするんだけど。
その時に、真央の写真を撮らせてくれないかと言われてね…
大丈夫かな?」


真央の瞳の輝きが消える。


「作品を展示する時に、名前とプロフィールと写真のパネルを横に置くらしい。
当日、撮影が無理でも心配は無用だ。
後で、お父さんが真央の写真を撮ってあげるからね。」


不安げにうなずく。


「表彰式は代理授与でもいいそうだから、後々考えよう。
とても名誉な事だから、重く考えず楽しい気持ちでのぞめればいいね。」


難問だらけだった。
まさか入賞するなんて、しかもグランプリを取るなんて、正直誰も考えていなかった。

確かに真央のステンドグラスの技術は細やかで美しい。
デッサン力も素人離れした豊かなものを感じる。

だが、見ていた自分達が素人であった為、真央の類い希な才能にまで、気づく事ができなかった。

ただ単に、社会と繋がりを感じて、出展する事の達成感や充実感を経験してくれればと考えていただけだったのだ。

まわりにいる蓮たちでさえ戸惑うのだから、当の本人である、まだ16歳の幼い真央の不安は計り知れない。


大丈夫、真央が笑っていられるように、俺がそばで見守っていくから…
蓮は心の中でつぶやいた。
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