飛べない黒猫
繁華街から少し離れた裏通りを、人目を避けるよう足早に岡田が歩いている。

黒革のセカンドポーチを脇に抱え、うつむいているが、目だけは気忙しく左右に動き、周りを警戒しているようだった。


ネオンも街灯も乏しい路地に入り、薄汚れたビルのガラスドアを押し開けて2階へと一気に駆け上がる。

岡田は、すぐ手前の部屋のブザーを押し、辺りを見渡した。
フロア内は静まりかえっていた。


間もなく物音がして、ドアの磨りガラスの窓枠に人影が動く。

ドアを開けた男は岡田を見るなり、ニヤリと笑う。
禿げ上がった頭に貧祖な身なりのその男は、ヘビのような執拗で冷酷な目をしていた。



岡田はソファーに座り、脇に抱えたセカンドバックから封筒を取り出した。


「約束の金は用意した。
電話での話は本当なんだな?」


男は机の上から大型の封筒を取って、岡田と向かい合う。


「いやぁ…今回は苦労しましたよ。
なにぶん、相当の月日が経っていましたしね。
金も使いました…」


「そんな話はどうでもいい。
早くそれを見せろ。」


岡田は、イライラした口調で吐き捨てた。


「こりゃ、すみませんね…」


男は封筒から、古い新聞と裁判記録を取りだした。


「26年前におきた事件の資料です。」


岡田は無言でそれらを手にして、確認した。
一通り読み終わると、封筒に書類を戻し手元に置いた。

変わりに、かなり厚みのある現金の入った封筒を、男の前に放り投げた。


「分かっているとは思うが、他言は無用だ。
お前が、合法でないやり方で情報を集めている事ぐらい分かっているんだ。
お互い、痛い目には会いたくないからな。」


男は「へへへ…」と、薄ら笑いを浮かべる。


岡田は封筒とセカンドポーチを抱えて、カビ臭い陰湿な部屋をあとにした。

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