飛べない黒猫
芸術部門のコンクール結果など、世間一般的に話題性は無く、大きく取り上げられることなど殆ど無い。

興味を持つ関係者が、ほんの一握りいるくらいが通常であった。

当初、真央の入賞は、通常通り業界紙や関連団体の広報誌に掲載されただけであった。



しかし、予想もつかなかった驚愕の事態が起こった。



グランプリの受賞者が、16歳の少女だったという異質性からか、急速に話題になり、新聞・雑誌に取り上げられるようになっていた。


謎多き美少女
引きこもりから芸術家への大きな躍進
母親の殺人現場に居合わせたセンセーショナルな過去


作品の芸術性よりも大きく取り沙汰される、まるでゴシップ記事のような見出しに、周りも関係者も面食らう。

取材で撮影された、愛らしく儚げな美少女の写真は、マスコミが飛びつく格好の標的になってしまったのだ。


情報が溢れた今の時代、思いもよらない事が大きな話題となり、情報が勝手に膨大にふくれあがってしまうことが多々見受けられる。

真央の入賞が、まさしくその標的になってしまったのだ。



インターネットの掲示板の書き込みや、ツイッターでの話題がきっかけになったようだった。

話題が話題を呼んで、協会団体、事務局への問い合わせが殺到した。


真央は今や、テレビで取り上げられる【時の人】となってしまっていた。






青田は家の門の前に到着すると、いったん車から降りてセキュリティの暗唱番号を押した。


先週、家にまで押しかけてきた記者が、勝手に門から入り、庭をうろつく事態が起きた。

幸い、真央は2階の部屋に居たため接触せずに済んだが、このまま放っておくわけにもいかず、青田は門の開閉口の高さを上げてセキュリティロックの設備を取り付けたのだ。


車を車庫に入れ玄関を開けると、洋子が明かりをつけて出迎えた。


「おかえりなさい、遅かったのね…」


青田は、芸術展の事務局から真央の件で呼び出しがあり、対応して戻った事を告げた。
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