飛べない黒猫
「何か問題でもあったの?」


「いや、真央の作品を見に来る来場者が多いので、展示の延期と他の作品も展示して欲しいってお願いだった。
まあ…この騒ぎも長くは続かないさ。
すぐに違う話題に興味は移り、私達の生活も平穏に戻るよ。」


「そうね。
あ、そういえば…」


洋子が思い出したようにつぶやく。


「今日、私のお店にも記者みたいな人が来ていたわ。
写真を撮られたの…青田さんですか?って。
違いますって言って追い出したけど…
すごいわね、私の事まで調べて真央ちゃんの事を聞きに来るなんて。」


「あの手の輩(やから)は礼儀も常識も無いからね…
相手にしないことだ。」


実際、青田の会社にも、突然カメラを向けてくる非常識な者が、数人現れていた。


「家の方は問題無しかい?」


「えぇ、蓮がいるし、電話はコードを抜いてあるわ。
携帯で連絡取り合えるから、問題ないし。」


「そうだね、しばらくはそうしておこう。」


青田はソファーに腰掛けふうーっと、息をつく。


当の真央は意外にも落ち着いていて、普段と変わらずに生活していた。

もともと、あまりテレビは見ないし、外の世界との繋がりも薄い。
ずっと家の中でガラスを切ったり、スケッチしたり、本など読むくらいなので、余計な情報は一切入ってこないのだ。


今は、かえってそれが、ありがたかった。

せっかく芽ばえた可能性のつぼみを、無惨に枯らす事無く咲かせてやりたいと願っている。


「今度の大作は花火と蝶らしいのよ。」


洋子は壁に飾ってあるステンドグラスを指差して言った。


「へぇ、花火ね…楽しみだ。」


青田は目を細めて笑った。
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