望月の夜に
「僕らの一族……。人狼族は男しか生まれない。だから、母体にいる女の子の赤ちゃんに君の胸元にあるような刻印を刻む」
「人狼族……?人じゃ、ないの?」
こんなにも、人によく似ているというのに?
目の前にいる“人”によく似たソレは、“人”じゃないというの?
ぐるぐると、頭の中をいろいろな考えが巡る。
けれど、答えが私の頭の中から出てくることはない。
「ここから車に乗って二時間くらいのところに、人狼族と、その伴侶だけが暮らす村がある。今から、君にはそこに行ってもらわなきゃならないんだ」
「どうして……。本人の意思は、関係ないって言うの……?」
「刻印はね、刻んだ相手の地位によって新月から満月までに分かれる。君の刻印は、満月。これがどういうことか、わかるよね?」
「私に刻印を刻んだ人は、地位が高いってこと?」
「そう。そして刻印が満月に近いほど……」
彼の目が、鋭いものに変わった。
まるで、獲物を見つけた獣のように。
そして、彼は何かを言うわけもなく私を見る。
「……君が、行きたくないというのなら強制はしない。でもね、君は自ら望んで村に行くことになる」
「何で、そんなこと……」
「わかるよ。コレ、僕の携帯の電話番号。暫くはこっちにいるつもりだから、村に行く決意が出来たら、何か訊きたいことがあったら、遠慮なくかけてきて。学校には行ってないからいつでも出る」
一番最初に会ったときのように、可愛らしい笑顔を見せた。
そして、押し付けるように私に一枚のメモを渡してきた。
そこに並ぶのは、数字の羅列。
多分、コレが彼の携帯の電話番号なのだろう。
自分から、村に行くことになると彼は言った。
それがどういうことなのか。
次の日の私は、身をもってソレを知ることになる。