望月の夜に
先生の許可を貰って、私はベッドに横になる。
別に特に寝不足というわけでもないけれど、ココなら視線を感じることがない。
先生も暫く保健室に戻れないと言っていたから、保健室には一人。
「刻印が満月のコが普通に登校するの初めて見たけどすごいね。アレじゃあノイローゼになっちゃいそう」
……一人では、なかったらしい。
私の転がっているベッドの隣のベッドに腰掛けて、冬哉くんは私に話しかけてきた。
ご丁寧に、この高校の制服を着ている。
一体どこから盗んできたんだろう。
「昨日、僕が言った意味わかった?今日はまだ視線が痛いだけだけど、このままじゃそうはいかないよ。変な人に襲われる可能性だってあるし、何より男より女の方怖いからね。見た?周りの女子の嫉妬に歪んだ顔」
「見てない、です……」
「だろうねー。すごいよ?特に三年生。自分の彼氏が茜ちゃんの方見てたときの顔。アレは傑作だなぁ。写真撮っとけばよかった」
ケラケラと笑う冬哉くん。
嗚呼、思っていたよりこの少年は歪んでいるのかもしれない。
「でさ、真面目な話。このままここにいて傷つくのは茜ちゃんだよ?女の子の嫉妬以上に怖いものはないと思う。裏から手を回したりとかしてくるよ」
私のことを心配するように、冬哉くんは言ってくれた。
行くにしろ、行かないにしろ、一つだけ気になっていたことがある。
「どうして、迎えに来るのは私に刻印を刻んだ人じゃないの?」
冬哉くんは目を見開いて私を見る。
多分、そんな質問は予想していなかったんだと思う。
でも、仮にも自分のお嫁さん?は自分で迎えに来るものじゃないだろうか。
「自分の花嫁はね、自分で迎えに行ったらいけないんだよ」
彼は目を伏せて、少し切なげに言った。