望月の夜に
周りの変化
唐突な話、私に両親はいない。
私がまだ小さな頃に死んで、私は親戚の家を転々としていた。
霧ヶ村に行くのが、一番いい選択肢なのはわかっている。
親戚に迷惑をかけることはないし、煙たがられなちだろう。
それでも。
「なっちゃんが、なぁ……」
なっちゃんとは、中学に入学してすぐに仲良くなった。
それからずっと一緒にいる。
他に話すコはいるけれど、一番の親友。
「お疲れ様、茜」
「ありがとう」
授業が全部終わって、放課後。
突き刺すような視線を感じながらも、なんとか今日1日が終わった。
「一緒に帰ろうか。その方が安心でしょ」
「……いいの?」
「いいよ。帰り道に変なのに襲われても嫌でしょ」
鞄を持って、外に向けて歩く。
昇降口を出て、門に向けて歩いているとき。
「茜ちゃん!!」
「え、きゃっ……!」
前から冬哉くんが現れて。
冬哉くんは私となっちゃんを突き飛ばした。
その瞬間。
ちょうど私たちがいた場所に植木鉢が落ちてきた。
茫然とする私となっちゃん。
けれど、冬哉くんはキッと上の方を睨んだ。
多分、この植木鉢は上の階から私を狙って落としたのだろう。
「ホント、女って怖いよね。やるなら正々堂々やればいいのに」
「あ、の……」
「あぁ、大丈夫だった?怪我、ない?」
「大丈夫……。ごめん、なさい。私のせいで」
私が謝ると、冬哉くんは微笑を浮かべながら私と視線を合わせるためにしゃがむ。
そして、小さな子供を宥めるように私の頭を撫でた。
「気にしなくていいよ。こういうのって、女の子を迎えに来たときは毎回あるから」
「え……?」
「酷いときはね、周りの嫉妬で女の子が意識不明になったりとかするんだ」
「それって……」
「うん、刃傷事件」
さも当たり前のように、冬哉くんは言ってみせた。