望月の夜に
「茜、その人……」
「初めまして。僕は狼宮 冬哉」
あぁ、なっちゃんは冬哉くんを初めて見るんだったっけ。
昨日今日の出来事が印象的すぎて、冬哉くんはずっとここにいたような気がしてた。
「僕はね、茜ちゃんを迎えに来たんだ」
「茜を?」
「ちょっと訳ありでね。最も、僕らは無理強いをするつもりはない」
「茜を、どうするの?」
なっちゃんは、冬哉くんを睨む。
座り込んだまま、冬哉くんを見上げる形で。
「君も、わかってるでしょ?茜ちゃんの変化」
「それと関係あるっていうの?」
「彼女はね、胸元に月の形の刻印がある。そういう女の子はね、ココにいたらいけないんだ」
「月の、刻印……」
なっちゃんにも、この刻印は見せたことはない。
丸い、青紫だった痣。
なっちゃんは何かを考えるように顔を伏せた。
けれど、すぐに立ち上がって冬哉くんを睨む。
「茜を連れて行ったら、茜はどうなるの?」
「向こうなら、嫉妬や妬みに晒されることはない。少なくとも、ココにいて傷つくよりはずっといいと僕は思うよ」
敵対するように、冬哉くんとなっちゃんは睨み合う。
けれど、なっちゃんは私の腕を掴んで私を立ち上がらせる。
そして、私を冬哉くんに差し出すように背中を押した。
「なっちゃん……?」
「茜のことだから、私のことが気がかりなんでしょ」
「何、で……」
「わかるよ、そのぐらい。何年親友やってると思ってんの」
なっちゃんは腰に手を当てて、私を心配させないように笑顔で言った。
「行きなよ。大丈夫、またすぐ会える。死ぬわけじゃないんだしさ」
「なっちゃん……」
「狼宮だっけ?茜のこと頼んだよ」
ヒラヒラと手を降りながら、なっちゃんは歩いていった。
少し寂しく思うと、冬哉くんがそれを察したように私の頭を撫でた。
その刹那。
「そうやって、お姫さま気取りなんだ」