欲望チェリ-止まらない心
プロローグ
「ねぇ、三咲。二人でこっそり部屋に行こうよ」
それは3月のある夜の出来事だった。
藤ヶ崎邸の広いリビングでは、暖炉を前に藤ヶ崎家と橘家で夕食会が開かれていた。
あたしの高校合格を祝しての、ちょっとしたパーティー。
藤ヶ崎家の息子、聖(ひじり)と
橘家の娘のあたし、三咲
この両家は父親同士が高校時代からの友人で
聖こと、ひー君とあたしの歳が近かったこともあり、普段から親交が深かった。
ちなみに
ひー君はあたしの2歳上で
家が隣同士とかじゃないけど…
世間一般でいう幼なじみってやつかな?
「父さんたちも酔ってるしさ。大人の話なんてつまんないだろ?」
りんご風味のスパークリングを飲んでいたあたしに、ひー君がこっそりと耳打ちをしてくる。
「二人だけで、祝おうよ」
ひー君の言葉が耳にこそばゆい。
自分の耳がほんのり赤くなるのがわかった。
「うん。いいよ」
あたしはニコッと笑った。
そして、
ワインで出来上がった親たちを尻目に、ひー君とあたしはこっそりリビングを抜け出した。
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