欲望チェリ-止まらない心
「三咲」
部活が終わった放課後の剣道場。
ひー君は剣道部の主将も務めていて
あたしはそんなひー君が終わるのを剣道場の外で待っていたんだ。
「三咲、遅くなってごめんね」
鞄を前に持ちひー君を待つあたしに、大きな荷物を抱えたひー君が走り寄る。
顔でも洗ったのか、ひー君の髪は濡れていた。
あたしはカバンからハンドタオルを出してひー君に差し出す。
「お疲れさま…って、濡れてるよ?」
「あ、ごめん」
ひー君はタオルを受けとると、髪を拭いた。
そしてあたしとひー君は並んで歩き出した。
空はオレンジを越えて夜に近付いている。
黒いシルエットの鳥たちも空の家路に向かっていた。
「あ…俺、汗くさくない?」
駅に向かうゆるい坂道。
ふいに、ひー君が髪を拭きながらちょっと照れくさそうに言った。
「え?」
「一応、頭だけは水で洗ったんだけどさ…」
剣道をすると、防具をつける関係でどうしても皆、結構汗臭くなる。
ひー君は今さらそんなことを気にしてくれていたんだ。