欲望チェリ-止まらない心
「紅は、あたしといて楽しいですか?」


「…え?」


「実はあたしのことが嫌いで…後でいなくなったりしませんか?」


「………」



俺が橘を見ると


橘はまるで母親にすがる、仔犬のような目で俺を見つめていた。


俺の胸の奥が苦しくなる。



気付かなかった。


俺はいま、初めてコイツの抱える心の傷の深さをちゃんと見た気がした。






「大丈夫だ」


「…………」


「お前といると楽しいし」


「…………」


そしてまたなっちゃんを飲む俺の横で、橘はこっそり涙を拭っていた。




ずっと、コイツを弱い奴だと思っていた。


言いたいことも言えない気弱な奴。


橘の性格には散々苛々してきた。


だけど


孤独や不安を溜め込みながらもこうやってまだ笑える橘は、強い。


考えてみりゃ…


橘はいじめを受けながらも学校を休んだことはなかった。


俺がどんなに冷たくしても、生徒会の仕事に来なかった日もなかった。



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