欲望チェリ-止まらない心
手を繋ぎながらの帰り道。


あたしの家まで着くと、ひー君は「あ」と思い出すように言った。



「……三咲。言いにくいんだけどさ」



「………え?」




ドキ…ン


何やら深刻そうなその表情に、あたしは胸騒ぎを覚えた。





「紅…海外へ留学するらしいんだ」


「………え」


「16時45分の明日の羽田便…最後に会ってくるといいよ」


「………!」






血が引いたように…

あたしの頭の中が、真っ白になっていく。





紅が…いなくなる?


“卒業”という形よりもハッキリと。


紅と会えなくなる。








そのくせ…

ウソをつくことを覚えた唇は、ひとりでに動き出す。


「や、やだひー君…なんであたしが…?行かない…よ?」


あたしは一体どこまで最低なんだろう。


どこまでひー君を傷つければ済む?


なんで唇が震えてるの?

なんで涙が出そうなの?



ウソをつくならもっと完璧に。

そうじゃないならもっと素直に。



あたしの生ぬるい覚悟と嘘が、いちばんダメなのに。


わかっているけど…

どうしよう……


涙が止まらない





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