鉛の筆
その日も、寂れたコインランドリーに人影は、あるはずもなく静まり返っていた。屋根の向こうに、ほんのわずかに勲の自宅の二階の窓が、満月に浮かび上がって見えていた。勲が言うには、そこは夫婦の寝室なのだそうだ。
勲が、少し首を傾げて、自分の寝室の灯りを確認した。消えている。もう深夜二時を回っているのだ、当然と言えば当然だろう。
「奥さん、寝てる?」
「ああ、そうみたいだ」
その言葉を言い切らないうちに、勲は両手で早苗の肩を包み込んだ。いつものこと。もはや儀式のように、帰り際に、勲は必ず早苗にキスをする。自宅に背中を向け、愛人の口唇を啄ばむのだ。
「いつか罰が当たると思うよ」
「当たったら当たったでいいさ」
「嘘ばっかり…」その言葉を言おうとする口唇を、勲は、悪戯に塞いだ。
その時、早苗は、勲の寝室に明かりが灯るのを見た。左目の端で、その様子を、まざまざと見ていた。明かりは、すぐに消えた。そして、窓辺に髪の短い女が立つのが見えた。月明かりが、その女の白いパジャマのサテン生地を、冷ややかに照らしていた。
勲が、満足そうに口唇から離れる。早苗は、ほんの一瞬躊躇したが、自ら勲の首に手をかけた。
「あと一回だけ」
「どうした?珍しいな」
二人は、ついさっきまで互いの身体を重ねていたのを忘れたかのように、再び絡み合った。勲は、助手席のシートを倒して、早苗の上に覆い被さった。
勲が、少し首を傾げて、自分の寝室の灯りを確認した。消えている。もう深夜二時を回っているのだ、当然と言えば当然だろう。
「奥さん、寝てる?」
「ああ、そうみたいだ」
その言葉を言い切らないうちに、勲は両手で早苗の肩を包み込んだ。いつものこと。もはや儀式のように、帰り際に、勲は必ず早苗にキスをする。自宅に背中を向け、愛人の口唇を啄ばむのだ。
「いつか罰が当たると思うよ」
「当たったら当たったでいいさ」
「嘘ばっかり…」その言葉を言おうとする口唇を、勲は、悪戯に塞いだ。
その時、早苗は、勲の寝室に明かりが灯るのを見た。左目の端で、その様子を、まざまざと見ていた。明かりは、すぐに消えた。そして、窓辺に髪の短い女が立つのが見えた。月明かりが、その女の白いパジャマのサテン生地を、冷ややかに照らしていた。
勲が、満足そうに口唇から離れる。早苗は、ほんの一瞬躊躇したが、自ら勲の首に手をかけた。
「あと一回だけ」
「どうした?珍しいな」
二人は、ついさっきまで互いの身体を重ねていたのを忘れたかのように、再び絡み合った。勲は、助手席のシートを倒して、早苗の上に覆い被さった。