I LOVE YOUが聴きたくて
誕生
秋の篭れ日が、窓を差す。
「ユウくん、上手だねぇ」
三歳(みっつ)の男の子が、自分の描いた絵を褒められて、満面の笑顔をしている。
「天使の笑顔だなあー。ユウくんの絵の上手さは、お父さん譲りだね!」
怜(ユウ)は、不思議そうな顔をして、また、絵の具で絵を描きだした。
「魅麗さん、一人で育てるの?」
綾は、怜(ユウ)を見つめながら、切なげに尋ねた。
「うん。そうよー」
魅麗は、お気に入りの雑貨を並べながら、平気な顔をして答えた。
「どうして、そんなに平気なの?本当は、平気じゃないよね?」
綾は、心配で尋ねる。
「平気よ」
魅麗は、いつ尋ねても、微笑みながら、こう言うのだった。
「そっか…凄いなぁ」
綾は、呟いて、紅茶をすすった。真新しい、真っ白なティーカップが、差し込む秋の篭れ日を受け、輝く。
「綾ちゃん、ごめんなさいね。私、バタバタしてて、ユウも見てもらって。テレビでも、音楽でも、好きなのしててね」
自分のお店のオープンに向けて、ひとり準備をする魅麗は、音楽も何も付けていなかったことに気付き、綾に声をかけた。
「は~い」
綾は、明るく返事を返して、部屋の壁側に置かれた、大画面のテレビのスイッチをつけた。枠の色は、赤。テレビは、ひとつのオブジェのように目立っていた。綾は、再び椅子に腰掛け、絵を描いている怜(ユウ)の姿を、優しい眼差しで眺めていた。テレビは、BGMの様に流れている。和かな篭れ日のそそぐ部屋で、穏やかに時間は流れていた。
「ん?」
テレビから聞こえた、『人気有名画家』という言葉に、綾は、耳を傾けた。
『あの人気有名画家、美咲 怜樹が、フランスより帰国致しました。この日を待ちに待っていたのでしょう。空港ロビーは、御覧の通り、大勢のファンの出迎えで埋めつくされています。
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