I LOVE YOUが聴きたくて
穏やかな波打ちに、漂う潮風が、心地いい。

「修くんは、演劇してないの?家族でやってるんでしょ?」

「うん、家族でやってる。僕は、やってないよ」

「ん?どうして?」

「こっちのおじいちゃんは、お母さんのお父さん。お母さんは、嫁ぐ前はやってたらしいよ。娘だからね。引っ越し引っ越しで、いろんな地方に行ったんだって言ってたよ。結婚して嫁いだから、お母さんは、今はやっていない。お母さんの兄弟とか、その子どもとかはやってるよ」

「そうなんだぁ」

「そう」

「なんとか一座っていうんだよね?」

「うん。うちは、充星松冴紋(じゅうせい まつざえもん)一座」

「へぇー。なんか、かっこいいね」

「そう?」

「うん」

「ありがとう」

修は、綾がそう言ってくれて、照れくさかった。でも、とても嬉しい気持ちだった。


「ここだよ」

話しながら歩いているうちに、辿り着いた。

「あっ!何か聴こえる!」

綾は、耳をすます。

「うん」

修も、耳をすました。

「御囃子?」

「うん、そうだよ」

太鼓の音や、笛の音…。

「わぁ…素敵」

綾は、すぐに、心を奪われた。

「入ろう」

「うん」

修に促されて、綾は、修に連れて、中へ入った。

「初めまして。こんにちわぁ」

綾は、中へ入りながら、緊張気味に様子を伺う。

「おじいちゃんだよ」

修は、綾にそう言って、おじいちゃんに手を振る。

綾は、おじいちゃんを見て、慌てて会釈をした。

小柄で、白髪頭に真っ白な顎髭をはやしたおじいちゃんが、綾を見て、にっこりと目を細めながら立っていたのであった。
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