Ｉ ＬＯＶＥ ＹＯＵが聴きたくて
あっ、今、美咲 怜樹さんの姿が見えました。ファンの歓声に答える様に手を振っています』
テレビレポーターが、画家美咲 怜樹の帰国を報告し、空港ロビーは、押しかけたファンの歓声で湧いていた。
「美咲 怜樹…」
聞き覚えのある名前に、綾は、呟き考えていた。と、その時、
【ガチャーン！】
魅麗の方から、何かが割れた音がした。
「魅麗さん大丈夫！？」
綾は、声をかけ魅麗を見た。魅麗は、驚愕した様な、真顔な顔になっていた。魅麗のそんな表情を見たのは初めてだった。しかし、それは一瞬で、魅麗は直ぐに笑顔になり、綾に言った。
「ごめんねー！綾ちゃん！びっくりしたでしょ」
魅麗は、そう言いながら、直ぐにしゃがみ込み、割れた破片を拾い集めた。どうやら、コーヒーカップを落としたらしい。
『あっ！そっか！』
綾は、思い出した。画家美咲 怜樹は、魅麗が愛した男性(ひと)。そして、魅麗が産んだ、怜(ユウ)の父親なのだ。綾は、そっと魅麗に話しかけた。
「あ…。魅麗さん…」
その後の言葉が続かなかった。どう声をかけたらいいのか困惑しているふうな綾の様子を察し、魅麗は笑顔で言った。
「帰ってきたのねぇ。びっくりしたなぁ…」
魅麗は、そう言ってうつ向いた。精一杯な笑顔だったのだろう。魅麗は、やはり本当は、心の奥底では耐えていたのだろう。無理をしながらも笑顔でいたのだろう。綾はそう思いながら、魅麗を見ていた。
「帰ってきてとか、一緒に暮らそうとか言わないの？」
「うん。言わないわ。あの人は、有名な画家ですもの。私とは違う世界の人」
「…でも…、怜(ユウ)くんは可愛いはずでしょ。我が子なんだし」
「言ってないわ」
「え！？言ってない？」
「そう」
「どうして！？」
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表紙・目次

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