I LOVE YOUが聴きたくて
食事を終えて、魅麗は、キッチンで食器を洗う。
振り子の古時計が、音を鳴らし、時刻を知らせた。
時刻は、午後三時。
「魅麗」
「うん?」
「それが終わったら、出かけようか」
「えぇ」
天気の良い外を見ながら、魅麗は返事をした。
「【大使冠】へ行こう」
「大使館?」
魅麗は、政府の機関に用事でもあるのかと、疑問に思いながら聞き返す。
「大使館じゃなくて、【大使冠】。喫茶店の名前だよ」
「あぁ、喫茶店。立派な名前の喫茶店ね」
「そうだね。大使館を思わせる様な、立派な雰囲気のお店だよ。元は、図書館だった。去年、喫茶店にしたみたい」
「へぇー。今は、本は置いてないの?」
「ううん、置いてる。図書館はそのままに、喫茶コーナーが出来ている。コーヒーが、とても美味しいんだよ」
「そう。楽しみ!」
魅麗は、ワクワクした。
怜樹は、魅麗が食器を洗い終えるのを待ちながら、徐に、大画面のテレビのスイッチをつける。そして、椅子に座って、食後のマティーニを一口飲んだ。
たまたまつけたテレビは、ニュース番組だった。ニュースは、暗い内容ばかりで…。
「どうしてこうなるのかな…。目先の役割にとらわれて…。人の命が一番大事なのに…」
怜樹は、テレビを見ながら、ひとり呟く。
明るい番組を見ようと、リモコンで切り替えた。
エンターテイメントな番組やデザイナーズマンションの番組など、なんとなく見る。
怜樹は、ふと思い、口を開いた。
「魅麗」
「うん?」
「昨日は、ごめん。もう、あんな事は言わないから、安心してね」
魅麗は、黙ったままでいた。あの言葉を言われて困っていたわけでもなかったので、怜樹に謝られて、言葉が見付からなかった。
怜樹は、言葉を続ける。
「言って良かったと思ってる。僕と魅麗は、もっと近くなった」
「うん」
魅麗は、そっと頷いた。
「ずっと傍にいてなんて、もう無理は言わないからね。魅麗は、好きな事をすればいい。君は、夢を叶えられる。僕は、遠くからでも見守っているから」
「ありがとう」
「僕こそ、ありがとう。君の肖像画があるから、平気になったよ。強くなれた」
怜樹は、とても清々しく笑った。


「それから、一週間後、私は日本に帰ってきたの」
そう言って、魅麗は、綾に微笑んだ。
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