I LOVE YOUが聴きたくて
魅麗は、レコードをかけた。
静かに流れてきた音楽に気付き、若くて上品なお客様は、魅麗に尋ねる。
「モーツァルト、ですよね?」
「えぇ」
魅麗は、微笑んだ。
「確か…フィガロの結婚でしたでしょうか」
「えぇ。よくご存じですね」
この曲は、魅麗にとって、怜樹とのとても思い出深い曲である。
「良い曲ですよねぇ~。上品で、かつ、心弾むような」

彼女は、クラシックの名曲に耳を傾けながら、ディスプレイを眺め、ゆっくりと棚から棚へと、買いたい雑貨を選ぶ。

魅麗は、真っ白なスープ皿にマッシュルームのスープを注いで、蓋を被せると、きのこ模様のテーブルへと運んだ。
「お客様、どうぞ、よろしかったら。お口に合いますかわかりませんが」
そう言いながら、魅麗は、スープをテーブルへ置いた。
若い上品なお客様は、振り向くと、遠慮気味に見ている。
魅麗は、遠慮せずに食べてほしくて言った。

「オープン記念に作りました。冷めても美味しく飲めるスープです。今日は、お店をオープンできた記念の日なので、来て下さった方に振る舞いたくて作ったのです。手が空いた時にでも、どうぞ召しあがって下さい」

若い上品なお客様は遠慮をしていたのだが、魅麗がそう言うので、思いを理解し、魅麗の好意に会釈をした。

「ありがとうございます。いただきます」

若い上品なお客様は、近くに置いてある可愛らしい籠を見付けて手に取る。そして、いくつか選んだ雑貨を籠に入れた。
彼女は、徐に、きのこの形の椅子に腰をかけた。そして、真っ白なお皿の蓋を開けて、スープを味わう。
「わぁ~美味しいですね。どうやって作ったのですか?良かったら、作り方を教えて下さい」
若い上品なお客様は、生き生きとした目をして、魅麗に尋ねた。
「え、そんな、教えるほど、たいしたものじゃ……、ブイヨンベースの鳥殻スープですよ。具は、マッシュルームが好きなので入れました」
魅麗は、謙虚に返事を返しつつ、ふと、お客様に出したものなのに、たいしたものじゃないなんて、失礼だと気付き、遠慮気味に答えた。
「そうなんですか。今度作ってみよう」
若い上品なお客様は、微笑みながら言う。
「お料理、好きなのですか?」
魅麗は、まだまだ若い方だと思い、尋ねた。
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