I LOVE YOUが聴きたくて
魅麗に、ピエロが愛嬌良く手を振る。パリに来たばかりの魅麗にとって、何もかもが初めてで新鮮だった。
先へ歩いていくと一本道があり、道の脇で、いろんな人がそれぞれ何かをしている。地面でアクセサリーを売っている人。手品をしている人。シャイカーを振る練習をしている人。似顔絵を描く商売をしている人。大きなオルゴールを手動で鳴らしながら、ワインを振る舞っている人。
そんな街中で、魅麗は、ひとりの青年と出会った。椅子に座って、キャンバスをイーゼルに乗せて絵を描いている青年がひとり。彼は、一際目立つ美青年だった。
ひとり静かに、そして優雅に、青年は風景を描いていた。その風景のあまりにも綺麗な色彩に、魅麗は思わず目を奪われて立ち止まり、後方より、その絵に見とれていた。ふと、気配に気付き、青年は振り向く。魅麗は、慌てて視線をそらすと、その青年を通り過ぎようと歩きだした。
「こんにちは。お姉さん、日本の方ですか?」
青年は、通り過ぎようとする魅麗に声をかけてきた。魅麗は、思わずびっくりして足を止め、振り返る。
「はい…そうです」
「そうですか。僕も日本人です。こんな所で日本人の女性と出会えるなんて、嬉しいなぁ」
青年は、とても素敵な笑顔をする人だった。
「いいお天気ですね」
青年は、微笑んで魅麗に言った。
「今日は、大学はお休みですか?」
「え?」
「?大学生でしょ?」
「いいえ…大学生には見えないでしょ」
魅麗は、苦笑いをしながら言った。
「見えますよ。違いますか?」
青年は、真面目に言う。
「えぇ、違います。大学は、もう卒業してます」
「そうですか。てっきり大学生だと思ったから」
爽やかに言う青年に、魅麗は、苦笑いをしながらも、悪い気はせず、青年の描く絵を眺めていた。色彩がとても鮮やかで、魅麗は、その絵に吸い込まれそうだった。
「てゆうか、綺麗ですね」
「??……あぁ、景色。そうですねぇ~綺麗」
魅麗は、景色を眺めた。
「いいえ。貴方が、です」
キャンバスと向き合っていた青年が振り向く。
「?……。初対面なのに、からかわないで下さいよ……」
「僕は、本当ことを言っただけですよ」
青年は、清々しく堂々としていた。
魅麗は黙ってしまい、沈黙が流れる。
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