I LOVE YOUが聴きたくて
「それでね、人々は、このままじゃいけない、戦争を終らせなければならない、時代を変えなければ、人生がもったいないって、口にする様になったんだって。でもね、……」

綾が、急に黙った。

魅麗は、次の言葉を急かさずに、静かにそっと待つ。

綾は、口を開いた。

「亡くなる人も少なくなくて……。笑顔になってほしくて、前向きになってほしくて絵を描いてきたのに、悲しい結末もあって。絵を見たときの、あの時の笑顔が、未だに忘れられないんだ、って。」

魅麗は、黙ったまま、静かに頷いた。

「ひとりの、ある若い男性の言葉が、忘れられないそうで…」

魅麗は、優しい眼差しで綾を見た。

「亡くなる直前に言ったんだって。『あんな綺麗な絵が描けるなんて素晴らしい。世の中には、あんなに綺麗な色があったんだね。もっと知りたかった。僕も、絵描きになりたかったよ』って、その人は言ったんだって。人生ってなんだろうね。その人の人生って、なんだったのろう……。同じ人間なのに、こんなに違う人生で……」

「そうね」

「……それからね、頼まれれば、いつでも何処でも絵を描いたんだって。お金は貰わなかったそうだよ。いろんな仕事をして、一生懸命に働いて稼いで、生計を立ててたんだって。お金を貰うために絵を描いてたわけじゃないから、絵を描いて、お金を貰うことは、しなかったんだって。無償の絵描きさんって、呼ばれてたんだって。テレビで言ってた」

魅麗は、静かに頷いた。
綾は、静かに、噛みしめるように呟いた。


「凄いなぁ…」

そして、魅麗に言う。

「会わないの?」
「え?」
「絵描きさんに」
「…。うん、そうね。会わないのかな」
「どうして?日本に帰ってきたんだよ。しかも同じ東京にいるんだよね?会いたいと思わないの?」
「…ん…、どうなんだろう。わからない。わざわざ会いに行こうとかは、考えてない。私は、私の人生を進むだけ。そんな中で、このまま会わないかもしれないし、ふと、会うことがあるかもしれないし。そんなふうに、漠然と思ってるだけ」
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