Ｉ ＬＯＶＥ ＹＯＵが聴きたくて
穏やかな出会い
穏やか風の中、真っ青な大空の下で、怜樹は、絵を描いていた。

ここは、誰にも教えていない、日本のアトリエ。
真っ白な、自分のアトリエの外の壁面に、絵を描いている。
壁面を、大きなキャンバスにみたてて、雄大に絵を描いていた。

今日は、とても天気がいい。
秋の空の下。
目の前には、海が広がり、ゆっくりと波打つ。
そう、ここは海辺。

怜樹は、日本のアトリエは、海の見える場所にしたくて、海辺のこの場所に決めた。

都心から、そんなに離れた場所ではなく、穴場の秘境だ。

怜樹は、日頃のざわめきから離れて、ひとり静かに、絵を描いていた。
聴こえるのは、波の音だけ。
秋の落ち着いた空からの明るい日差しの下で、怜樹は、自分の時間を過ごしていた。

たまの自分の時間を、ひとり静かに、過ごしていた。


久しぶりの状況に、ふと、昔を思い出す。


「懐かしいなぁ。こうやって描いていたなぁ。昔みないだなぁ」


今や有名な画家で、毎日、誰か彼かが側にいる騒がしい日常からの、久しぶりのひとりの時間に、まだ二十歳だった頃の、パリでのことを思い出す。


「魅麗は、元気かなぁ」

自分が日本にいることを、魅麗は知ってるだろうか、テレビで見ただろうかと、怜樹は、ひとり、思うのであった。
< 61 / 200 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop