I LOVE YOUが聴きたくて
しかし、何故か言葉が出なかった。
魅麗は、目を落としたままだった。

「可愛いお店だね」

怜樹の声かけに、魅麗は、顔を上げる。

怜樹は、清々しい眼差しで、目を細めながら、魅麗のお店を見上げていた。
その眼差しに、懐かしさを覚える。

【あの時と同じ…】

魅麗は、思い出していた。
五年前、凱旋門の路地裏で、初めて怜樹を見たときの、あのときの、洗練された容姿の爽やかな彼の眼差しを。

魅麗は、見上げる怜樹を見つめていた。

怜樹は、きのこの建物を見渡しながら、眺めていた。

「マッシュルームか。なるほどね」

怜樹が、魅麗を見て微笑む。
魅麗も、頷きながら微笑んだ。

「いい建物だなぁ。場所も凄くいい。いい場所にしたね」

「そうかな」

「うん。景色の一望できる場所にお店を出せて、羨ましいよ。お客さん、いっぱいくるね」
「ほんと!?嬉しいなぁ~。一流の画家さんに御褒めを頂いて」

「何言ってんだよ」

そう言って、笑い合った。

笑ったら、肩の力が抜けたのか、魅麗は、語り出した。
怜樹に、言わずにはいられなかった。

「聞いて聞いて。この看板、私が付けたの!」

「へぇーそうなんだ。あんなに高い所なのに、危なくなかった?大丈夫だったの?」

「うん!大丈夫。雑貨もね、全部自分で並べたの。建物は、勿論、大工さんが建ててくれたから、内装も、棚とかも完璧だったんだけど、自分でも棚とか付けたくって、色々付けたりしたの」

子どものように、無邪気に言っている魅麗を見て、五年前の魅麗の姿が甦り、やっと、魅麗に会えた気がして、怜樹は、とても嬉しい気持ちになった。

「そうなんだ。よく頑張ったね」

怜樹は、魅麗を抱きしめる。
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