I LOVE YOUが聴きたくて
挫折
怜樹は、車を走らせながら、考えていた。

お店の中に飾られた、自分の描いた宇宙の絵を見つけたとき、小さな男の子が、すやすやと眠っているのが見えた。

怜樹は、そのことを考えていた。

そして、ぎこちなかった魅麗の様子と結びつける。


怜樹は、真面目な表情で車を走らせる。

車は、海辺のアトリエへと辿り着いた。

怜樹は、静かに車をおりた。

夕日が、海へと沈んでいく。

怜樹は、ただそれを、見ていた。

夕日は沈みきり、海辺は、真っ暗になった。


ふわぁ~と、壁画の夜光絵の具が、鮮やかな彩りとともに、光、暗闇に浮かびあがる。

怜樹は、それを見つめていた。

真っ暗な中に浮かびあがった、大きなキャンバスの絵。

壁面いっぱいに描かれた、青空、真っ直ぐに伸びる一本の大木、その枝に実った彩り豊かな沢山の木の実、冴えずる小鳥たち、鮮やかに咲く花ばな、川のせせらぎ。

それぞれが、真っ暗な中に、いろんな色で光ながら浮かびあがる。

それは、まるで、暗闇で宙に浮いた絵画だった。


怜樹は、その絵を見ながら、五年前、パリで魅麗と出会ってから、一年間一緒に過ごした日々を思い出す。

魅麗の、いろんな表情を思い出す。

笑った顔、すました顔、膨れ面な顔、真面目な顔、大人っぽい顔、無邪気な顔、そして、泣き顔。

どれも、素直で素敵な魅麗の顔で、怜樹は、大好きだった。

【魅麗が、僕に隠し事をするはずがない。する必要がない。友達の子どもでも、預かっていたのだろう】


怜樹は、そう考えていた。

その夜は、眠れない夜を過ごしたのであった。
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