I LOVE YOUが聴きたくて
老人は、怜樹に話かけずに、黙って座っているようだった。

怜樹の様子を察したのか、怜樹に配慮をするかのように、声をかけずに、ただ、側に腰かけて、黙っていた。

【海でも眺めてるだろうか…】

怜樹は、考えながらも、まだ、目を開けずにいた。


どれくらいの時間が流れただろう。


暫く経ってから、老人は、静かに口を開いた。

「絵描きさん、きつくはないかね。ずーっとその体勢じゃが」

怜樹は、黙ったまま、そっと、目を開いた。
そして、ゆっくりと体を真っ直ぐにし、老人の方に顔を向けた。

老人は、怜樹に背を向けていた。手を組んで前屈みに座り、海を眺めていた。

怜樹は、テラスをおりた。
そして、テラスの際に座っている老人の傍らに腰をおろした。
怜樹も、真っ直ぐ前の、大海原を眺める。

老人は、海の方に目を向けたまま、怜樹に言った。

「どうしたんじゃ、絵描きさん。眠れなかったのかい」

「…はい…」

怜樹は、座ったまま、両足に両肘をつき、前屈みに頭を伏せる。

「そんなに目を腫らして、美男子が台無しじゃのう」

老人は、高笑いをした。

怜樹は、黙ったまま。

静かな中、穏やかな波の音だけがしている。

カモメが飛んできて、優雅に鳴いた。


「今日は、雨じゃのう。激しい雨が、一降りくるぞ」

老人は、真上に広大に広がる大空を見上げて言う。

怜樹も、大空を見上げた。

「雨降って地固まる、じゃ。のう、絵描きさん」

怜樹は、言葉の意味はわかるが、老人の言おうとしていることがわからず、老人の方を見た。

老人は、言葉を続けた。

「自分で消化できずに悩んでいるのじゃったら、もし相手がいるのなら、思っていることを、はっきりと相手に言った方が良い時もある。例え揉めたとしても、その揉めたことで、かえって、それ以前よりも状況が良くなったり、安定したりすることがあるのじゃよ」
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