I LOVE YOUが聴きたくて
【風の匂い………】


怜樹は、目を閉じる。そして、もう一度、深呼吸をした。

「いい匂いがする……」

怜樹は、目を閉じたまま、風を感じながら、魅麗に会いたいと思った。

「ほう、風の匂いかい」

老人は、目を細める。

「うん。おじいさんも、風の匂いする?」

「そうですなぁ~」

老人は、そう言って、深呼吸をした。
そして、怜樹に言う。

「ほう、しますなぁ~」

「うん、いい匂い」

「ほほう」

「おじいさん、僕、ちょっと行ってくるよ」

怜樹は、突然、車に乗り込んだ。

「会いたい人がいるんだ」

「そうかい。気を付けてのう」

「うん」

怜樹は、魅麗のもとへと向かって、車を発進させた。



登り坂から下りの大通りへ、怜樹は、車を走らせる。

暫くすると、右前方に、見晴らしの良い丘の上に建つ、きのこのお店が見えた。

怜樹は、お店のすぐ側に車を停めた。

そして、車を降りようとする。

「あ……」

雨が降ってきた。

突然の雨は、すぐに大降りになった。

「おじいさんが言ってたなぁ…」

傘を持ってきていなかった怜樹は、再び車に乗り込んだ。

そして、雨が止むのを待つ。


「わぁーどうしよう。濡れる濡れる」

声がして、怜樹は、声の方を見た。

慌てて出てきた、魅麗の声だった。
どうやら、洗濯物を干していたようで、雨が降ってきたので、慌てて取り込もうとしているのであった。
途中、慌てすぎて、洗濯物を落としてしまう。

「そそっかしいなぁ」

怜樹は、車のドアに肘をつき、微笑む。

魅麗の慌てる光景を、微笑ましく見ていた。

すると、小さな男の子が、外に出てきた。

「あ…。この間、眠っていた子だ。いつも来てるのかな。誰なんだろう」

怜樹は、様子を見ていた。

すると、次に、高校の制服を着た女の子が、小さな男の子を追い掛けるように、外に出てきた。

「あぁ、なんだ。あの子の弟だったのか」

怜樹は、姉弟だと思い、納得する。
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