Star☆Hunt〜*スター・ハント+゚・*〜
ヒコガワの家は、あたしが事故った場所から驚くほど近かった。

新しい輸入住宅街風の通りを一本裏手に入ると、古そうな日本建築の家がいっぱい並んでる。
ヒコガワの家は、そんな屋敷のひとつだった。

「………あれ?」

立っっ派な門柱には、古い家にはよくあるように家族全員の名前が書かれている。
その末に小さく書かれた…−書き加えられた感じで、ヒコガワの名前があった。

ひとりだけ油性マジック。
彦川 砂清。

…すごく気になったけど、直に聞けるわけない。

…暗いのに家に明かりはなく、砂利道を通り抜けたヒコガワはポストから鍵を取り出して開けた。
●ザエさんでしか見たことないような引き戸は、大きな家の中に空しく響いた。

「入れよ。誰もいねーから。…靴のまんまな。」

…欧米か

どーみても足袋が似合う飴色の板床。
ヒコガワはふつーに、汚いブーツで歩いていく。

「2階な」
「…うん」

暗い長い廊下。くねくね曲がって、広ーい畳部屋を横切って、奥のせまい廊下に来た。端の削れた急な木の階段をのぼると目の前にたったひとつドアがあった。

…ここだけ新しい。フェイクの木製ドア。
2階はこの部屋だけ。階下と切り離された場所。



「お前が踏み込む世界はあまっちょろいとこじゃねぇぞ。それだけは覚悟しとけ。」

ドアノブに手をかけて、ヒコガワは振り返った。

「…分かった」

ヒコガワがどんな家でどんな生活をしているか。分かった気がした。
ただのちゃらついたヤツじゃない。

「この話を聞いたら、もう戻れねぇ。いいな。」


あたしは黙ってうなずいた。

−…いい加減で誰にでも適当に接してるようなこの背の低い男は、なぜかあたしの手を正面から握ってくれる気がした。


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