頭痛
 秋史は帰京する特急電車の中で、信一郎の日記を見た。
 分厚い辞書のような日記は、赤いロウで固められ、封が施されてあった。
 ロウに記された日付は、信一郎の亡くなった翌日になっていた。信一郎の父親が封印したものだと悟るのに、時間は掛らなかった。

 秋史は持っていたディスカウントショップのポイントカードを、財布の中から取り出した。
 使用期限が遠に過ぎているカードだ。貧乏臭さは抜けていなかった。
 そのカードで、ロウの封印を鋭く断ち切った。

 何かで額を殴られたかのように、頭が痛くて気を失いそうになった。
 そして、まるでおんさの余韻に浸っているかのように、脳の芯まで響いている。

 信一郎の死という事実が起った筈なのに、頭痛は収まる気配もなかった。
 もしかしたら、この日記を閲覧することを、潜在意識の中で拒んでいるのではないか、などと考えたりもした。

 しかし、もう、封は切ったのだ。

 信一郎の真実が、そこにあるに違いなかった。
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