頭痛
第五章 終焉
 秋史には、信一郎の父親の消息に、心当たりがあった。
 少年時代に一度だけ信一郎に連れて行って貰った、滝の中の棲み家である。
 誰にも知られていない、信一郎の話では、父親の秘密の隠れ家なのだという。

 当時は秋史も小さくて分からなかったが、今思えば、あの空間は密造酒の保管庫ではなかったのか、と確信している。
 何故なら、沢山の瓶や箱、そこに並べられていたのだ。


 ある日、秋史の父親は、この滝の下流で死体となって発見された。川縁で足を滑らせ、運悪く岩に頭を強く打ったとされ、意識不明となり溺死したという。
 滑りのある川縁で、足を滑らせた跡も残っていた。

 秋史の父が突然亡くなり、その後、機会を見計らったように叔父が乗り込んできた。お陰で、家の中は滅茶苦茶になった。

 そして、実家に居座った叔父は、見たこともない酒を飲んでいた。
 いや、酒を飲んで荒れていた父も、同じお酒を飲んでいたではないか。あの出処の解らないお酒を口にする度に、父は豹変していたではないか。

 何かが繋がってはいないか、偶然なのではないか、と秋史は自問した。

 秋史は必死に記憶を辿り、連ねた。
 何かが見えるまで、頭痛が晴れるまで考えた。

 答えを見付けるため、決着させるため、秋史は滝の棲み家へ向かうしかない、と思った。

 信一郎の父親は、きっとそこにいる筈だと、確信をもっていた。
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