頭痛
 滝の棲み家は、滝からの湿り気とは裏腹に、時折、低い爆発音を交えて、勢い良く燃え上がった。

 秋史は遠くで炎を見ながら、あの煩わしい頭痛が、何事もなく収まっていることに気付いた。

 面白いように燃えている。
 とても爽やかで、晴れやかであった。

 しかし、手放しで喜ぶほど、秋史も馬鹿ではなかった。
 世の中が自分の過去に触れようとした時、きっと再発するに違いない。
 癒えぬ病なのだ、と秋史は思った。


 この炎の中で、全ては消え失せた。
 秋史の煩わしい過去は、本当に消え去ったのだ。

 秋史は帰り道、知らず知らずのうちに、鼻唄を歌っていた。
 スキップを踏んでいたのかもしれない。

 多くの人間の生き死にに対し、頭の中では快活で滑稽な音楽を奏でていた。
 こうして改めて人生をやり直せる自分に、新たな可能性を感じずには、いられなかった。

 秋史は突然、立ち止まった。
 そして、滝の棲み家のあった方角を向き、自分自身に明確に宣告した。

 全て、終わったのだと。

 いや、終わらせてやったのだと。
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