LOST
…痛い。
こいつの妙な馬鹿力にはつくづく嫌気がさしてくる。
俺が肩をさすっていると、
「お前の隣の席の奴、まだ来れないのかな?」
汰壱が心配そうに俺の隣の席に目をやる。
そう。
もう6月にも関わらず俺の隣の席の奴は、春から一回も学校に来ていない。
汰壱が言うようにクラスには担任が“来れない”と言っているが、実際は“来ない”だけだ。
俺の勘でしかないけどな。
「知らねぇ。」
「病気か何かなんだっけ?」
「知らねぇ。」
「不登校とかじゃねぇよな?」
「知らねぇ。てか、俺が知るわけないだろ。聞くな。」
汰壱が『ちぇー。』とつまらなさそうにして、自分の席に戻っていった。
きっとこの来ない奴だって、思ってるんだ。
この世には失うものしかない、と。
俺だって初めからこうやって思ってたわけじゃない。
色んなことに希望持って、期待して、そんな時期だってちゃんとあったんだ。