ハカナキナミオト
 それからというもの、「気配」は「少女」の像を結んで「私」の部屋にたたずむようになった。恐怖は無かった。時に偶然目が合うこともあった。「少女」は無表情ではあったが、そこには怨も恨も無かった。ただ、見ているだけ。
 強いて言えば、疲れきって眠りこけた者を、あきれながら見守るような眼。口元からは、溜め息と一緒に微笑まで零れそうに思えた。

 全ては「私」の無意識層が見せている幻想に過ぎなかったかもしれない。それでも、「私」には充分すぎるほどの贅沢に思えた。
 「少女」はずば抜けた美少女、というのでもなく、そこそこどこにでもいそうな十四、五の娘である。それでも、彼女は望んでここにいる。意中の女性に見限られ、心に幾ばくかの潤いすら無くしたこの「私」には、過ぎた処遇である。
 喩え、それが「人ならざるモノ」であったとしても。
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