ハカナキナミオト
別れは唐突に訪れた。
その夜、「私」は異常なほどに接近した「気配」に眠りを覚まされた。接近、などというものではなかった。「気配」、いや「少女」が「私」の頬を撫でたのだ。「少女」の突然の接触に寝返りを打てば、彼女の顔が間近にあった。
「!」
怪異というには、あまりにも哀しげな「少女」の表情に、「私」は恐怖ではなく、切なさを感じた。
「どうしたの?」
思わず、かすれる声で「私」はたずねた。だが、「少女」はそれには答えず、静かに離れていく。「私」は見た。彼女の腕に、しっかりと、大切そうに抱きかかえられていたのは、あの「私」が掘り出した「地蔵」、であった。
そして、闇に消える寸前であった。
「ありがと。さよなら。」
確かに聞こえた「少女」の声。光に妨げられることの無い、澄み渡る闇の声だった。
全てが終わった。夜明けにはまだ間がある、深い闇だけが部屋に残されていた。その闇に包まれながら、「私」は静かに泣いた。
あれからもう十年が経とうとしている。あのころの意中の女性は、もうどこで何をしているやら、全く解からなくなっている。
今でも「私」はあの浜辺に出かける。そして、供養塔のもとで、あの日と同じように海を眺める。「私」の出合った、やさしくて切ない「怪談」を思い出しながら。
FIN.
その夜、「私」は異常なほどに接近した「気配」に眠りを覚まされた。接近、などというものではなかった。「気配」、いや「少女」が「私」の頬を撫でたのだ。「少女」の突然の接触に寝返りを打てば、彼女の顔が間近にあった。
「!」
怪異というには、あまりにも哀しげな「少女」の表情に、「私」は恐怖ではなく、切なさを感じた。
「どうしたの?」
思わず、かすれる声で「私」はたずねた。だが、「少女」はそれには答えず、静かに離れていく。「私」は見た。彼女の腕に、しっかりと、大切そうに抱きかかえられていたのは、あの「私」が掘り出した「地蔵」、であった。
そして、闇に消える寸前であった。
「ありがと。さよなら。」
確かに聞こえた「少女」の声。光に妨げられることの無い、澄み渡る闇の声だった。
全てが終わった。夜明けにはまだ間がある、深い闇だけが部屋に残されていた。その闇に包まれながら、「私」は静かに泣いた。
あれからもう十年が経とうとしている。あのころの意中の女性は、もうどこで何をしているやら、全く解からなくなっている。
今でも「私」はあの浜辺に出かける。そして、供養塔のもとで、あの日と同じように海を眺める。「私」の出合った、やさしくて切ない「怪談」を思い出しながら。
FIN.