ハカナキナミオト
 「私」はその頃、浮つきながらも、自分が生きながら腐っていく感覚に日々悶絶していた。

 仕事は惰性でこなす感じで、しかも上のほうで起こっていた派閥争いに巻き込まれたりしていた。頻繁な配置換えで、やっと仕事場の近くに引っ越したかと思ったら、バイクで行くのがやっとのところに雪の降る頃に配属されてみたり。
 実際の所、引っ越したのは仕事上のこともあったが経済的な事情もあった。そして何より、その頃「私」の仕事先にバイトで入っていた、かなり気になる女の子の近所にいられる、というのが何より重要だった。

 それが励みになり人生は上々、とは行かないのが世の常。前述の通り配置換えでその子とは会えなくなるし、おまけに引っ越して近所になったことが彼女を警戒させてしまったらしい。「私」は努めてその子と距離をおくようになってしまった。物理的な距離は縮まり、心は離れていったわけである。
 ただ暮らしているだけの毎日。「私」の足は自然に海へ向かうようになっていた。
< 2 / 12 >

この作品をシェア

pagetop