ハカナキナミオト
「あの日」、「私」は南側の浜に立った。季節は初秋。防砂林と河口の間、形ばかりの堤防の上を、ぼんやりと歩く。やがて、ぽん、と放り出されるように、唐突に浜に出る。深呼吸で海風を肺に満たす。
浜と防砂林の境は、風のせいかそれとも松の根の張り具合なのか、ぐっと盛り上がり砂丘の様相を呈している。その裾野に、砂の上に浅く根を張る雑草が草原を成し、更に砂丘の足下には常に巨大な水溜まりがある。不思議なことに、この水溜まり、枯れたところを「私」は見たことがない。なかなか趣深い。
砂丘をさくさくと昇る。かたや嘘クサイ空と雲と水平線、かたや深く黒々とざわめく松林。この、一歩間違うと自然の息吹のささやきが己の命の価値を軽んじさせてしまいそうな、軽やかで穏やかな現実感の無さが心地いい。昼下がりの高い青空がその快感をあおる。
浜と防砂林の境は、風のせいかそれとも松の根の張り具合なのか、ぐっと盛り上がり砂丘の様相を呈している。その裾野に、砂の上に浅く根を張る雑草が草原を成し、更に砂丘の足下には常に巨大な水溜まりがある。不思議なことに、この水溜まり、枯れたところを「私」は見たことがない。なかなか趣深い。
砂丘をさくさくと昇る。かたや嘘クサイ空と雲と水平線、かたや深く黒々とざわめく松林。この、一歩間違うと自然の息吹のささやきが己の命の価値を軽んじさせてしまいそうな、軽やかで穏やかな現実感の無さが心地いい。昼下がりの高い青空がその快感をあおる。